新潟県中越地震<平成16年(2004年)>
【基本情報】
●この地震は新潟県中越地方を襲った典型的内陸型直下地震であった。本震位置は震度7を記録した旧川口町の直下と判断される。
●震源が13kmと極めて浅く地表は激甚な揺れに見舞われ、川口町で震度7、小千谷市、旧山古志村、
小国町などでは震度6強であった。川口町の震度7は川口町役場に設置した震度計で記録したもので、計測震度計で記録した震度7としては日本で初めてである。
項 目 | 内 容 | 項 目 | 内 容 |
---|---|---|---|
①発生日 |
2004年10月23日(平成16年) |
②発生時間 |
午後5:56 |
③地震の規模 |
M6.8 |
④最大震度 |
7 |
⑤震源域(深さ) |
川口町の直下(震源の深さ:13km) | ||
⑥全壊家屋 |
3,175棟 |
⑦死者 |
68名 |
⑧半壊家屋 |
13,810棟 |
⑨負傷者(重症・軽傷) |
4,795名 |
⑩一部損壊家屋 |
104,619棟 |
|
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●この地震の規模はM6.8で阪神・淡路大震災のM7.2より小さいが最大震度は7で阪神・淡路大震災以来の強さであった。また地震による加速度は川口町の
観測記録によると2,515ガルで阪神・淡路大震災の818ガルより大きく過去記録にある最大の加速度の2,037ガル(宮城県北部地震)を超えるものであった。
●震源は川口町の直下で震源も深さ13kmと浅く川口町では震度7、小千谷市、山古志村では震度6強であった。
この地震特徴は震源付近は山間部であったことから土砂災害が多発したことで東山丘陵、魚沼丘陵のいたるところで大規模な地すべりや
斜面崩壊が3,791箇所も発生したことである。
【図13-2】本震位置と活断層分布図
●このため幹線道路がいたるところで土砂くずれを起こし交通インフラが麻痺することにより孤立する地域が多数発生すると共に山間部へ接続される
電力・通信ケーブルが破壊され電話やインターネット回線が使えなくなり外部からの安否確認がとれない状況が発生した。
●新潟県中越地方はユーラシアプレートと北米プレートが衝突する日本海東縁変動帯で特に強い褶曲を受けている場所で
地中では複雑な応力がかかっていて付近には【図13-2】に示す長岡平野西縁断層帯、六日町断層帯、十日町断層帯他がある。
●当初は六日町断層帯の北部が活動したと思われていたが、その後の調査で明確な断層線が地表に出現していないこともあり、
六日町断層帯の活動が否定され他の断層帯との関連性も無いことから新しい断層(未知の断層)が動いたと考えられた。
●全国では3,000以上の活断層が確認されているがこの地震のように必ずしも確認されている活断層が動くとは限らず地中に隠れている未知の
断層がある日突然活動することもある。
●東南海・南海地震のようなプレート境界で発生する海溝型地震の場合は歴史上の資料や地質の状況等から、
今後の発生時期や場所がある程度予測できるものもあるが、内陸直下型地震の場合は予知が極めて難しい。
●中越地方の過去の同レベルの地震が繰り返し発生しており記録に残るものでは1636年12月3日発生の
寛永中魚沼郡地震から今回の地震まで368年の間に16回発生しているが、近年は発生頻度が多くなる傾向を示している。
このように繰り返し起きることは経験則から分かるが次にどの場所で地震が発生するかの判断は限りなく難しい状況にある。
<土砂災害> トップに戻る
●この地震の特徴は山間部での土砂災害が多発したことで東山丘陵、魚沼丘陵のいたるところで大規模な地すべりや斜面崩壊が3,791箇所で発生した。
新潟県土木部発行の「中越大震災記録誌」では当時の大規模土砂災害の被害と復興の詳細が記録されている。
【写真12-3】小千谷長岡線の土砂災害現場(長岡市妙見町/写真提供:新潟県)
●【写真12-3】は小千谷長岡線の土砂崩れ現場の写真であるが、このような幹線道路をいたるところで寸断しインフラが麻痺し連絡がとれない孤立する地域が多数発生した。
●【図13-4】は信濃川支流の1級河川野辺川が3ケ所の地すべりにより河川閉塞(川が土砂くずれ等で埋まり天然のダムができること)を起こした状況であるが
復旧には仮水路を構築し洪水や土石流対策を行った上で復旧工事を実施したことがうかがえる。
●その他旧山古志村でも崩壊した土砂が村を流れる芋川を5ヶ所で堰き止め、上流側に河道閉塞が形成され下流側に土石流が発生する可能性が出たため国が直轄事業として砂防工事を実施した。
詳細については新潟県HPで「新潟県中越大震災の記録」を確認すると良い。
【写真13-4】野辺川の河川閉塞状況(写真提供:新潟県)
●道路の被害は幹線道路はもちろん各地域の市町村道が地すべり、亀裂により寸断され災害支援活動やその後復旧工事をより困難にした。
このため国道291号線の復旧が完了したのは平成18年9月まで約2年近くを要したことからもこの地震での土砂災害の大きさを物語っている。
●新潟県では過去にも寛文高田地震(M6.8)、宝暦高田地震(M7.0~M7.4)、善光寺地震(M7.4)など新潟県中越地震と同様なM7クラスの内陸型断層地震が地震が
多数発生しておりその度に大規模な土砂災害が発生している。特に善光寺地震では死者2,695人、全壊家屋9,550戸、半壊家屋3,193戸、山崩れ41,051個所など
甚大な被害が出ており犀川では岩倉山(虚空蔵山)斜面の崩落により65mもの高さをもつ巨大な堰止め湖(河道閉塞)を生じたとの記録にいる。
●過疎化が進んだ山村は高齢者が多く緊急時に速やかな行動がとれない社会的弱者だけが取り残される傾向にある。今後、
高齢化が加速する中で災害時の山間部の孤立化防止対策として行政無線を充実し通信手段を確保すると共に地域の拠点に食料、水他災害時の防災用品を常時設置するなどの対応が必要だ。
●関東大震災では地震前に台風の影響もあり豪雨が続き山の地盤が弱くなったいたところに地震が発生したため特に神奈川県では土砂災害が多数発生し特に
小田原市根府川の白糸川の上流の大洞山が崩れ巨大な土石流となり下流の根府川の集落159戸のうち78戸が一瞬で土石流で埋もれて289名が犠牲になった。
このように土砂災害は一度発生するとその被害は甚大となるが、どこで起こるかの正確な予測は地震と同様極めて難しい状況にある。
●その後平成11年6月29日の豪雨による広島の土砂災害(広島災害:土砂災害325件、死者24名)がきっかけとなり平成13年に国は「土砂災害警戒区域等における
土砂災害防止対策の推進に関する法律」を公布し全国土砂災害の危険個所を「土砂災害警戒区域」と「土砂災害特別警戒地域」に分けて洗い出しが
行われるようになった。自分が住んでいる地域が危険区域に入っているかの情報(土砂災害ハザードマップ等)は各地域の行政のホームページ等で
検索することができる、是非確認すると良い。
<新幹線被害> トップに戻る
●鉄道では時速200キロ超で走行していた上越新幹線「とき325号」(200系10両編成、乗員乗客154人)がこの地震で脱線を引き起こした。
営業運転中の新幹線が脱線したのは初めての出来事であったが揺れを感知して自動で非常ブレーキが作動し、約1・6キロ先まで走って停止した。
10両のうち6、7号車を除く8両が脱線して傾いたが、車体下の機器類が偶然レールに挟まり、奇跡的に横転は免れた。
【写真13-5】新潟県中越地震新幹線脱線(写真提供:災害情報データベース)
●上越新幹線「とき325号」には早期地震警報システムである「コンパクトユレダス」が搭載されており想定通り機能したが直下型地震であったため、
全列車を安全に停止させるには至らなかった。(「コンパクトユレダス」はP波の初動情報により、対象となる列車を自動停止させる装置)
●この地震の後に発生した2011年3月の東日本大震災では震源が遠かったこともありP波をキャッチしてすぐ緊急停止信号を出したため走行中の
27本の新幹線は揺れ始める前に緊急停止できけが人は出なかった。ただし仙台市内を走行中の新幹線(試運転用列車)1本が脱線(1両)したが
14km/hまで減速していたため大事故には繋がらなかったとの記録がある。この例では震源が遠かったことが幸いしP波をキャッチしてから実際の揺れが
来るまで時間があったので新幹線を停止することができたが、走行中列車の直下地震ではP波が来るとほぼ同時に揺れが来るので最悪の場合は大事故
(走行中車両の正面衝突・高架橋からの転落など)に繋がる可能性も構造的に残っていることは忘れてはいけない。
<建築物の被害> トップに戻る
●地震による建物被害は震度である程度想定されるが日本では明治17年(1884年)以来体感で震度観測を行ってきた。平成3年(1991年)になって気象庁は
世界で初の震度計を開発して平成8年(1996年)からは全面的に震度計による震度観測を開始した。新潟県中越地震では気象庁が震度計を導入して以来初めて
川口町に設置してあった震度計が震度7を記録された。
【写真13-6】1階部分が押し潰された商店(写真提供:災害情報データベース)
●過去の震度7クラスの巨大地震では建物への被害が顕著になり耐震性が弱い建物は全壊や倒壊などの災害を受けやすいことは経験則上の事実である。
川口町役場に設置されていた地震計から半径200mの建物150棟の被害状況を調査した結果をまとめた「日本地震工学会論文集第7巻、第3号、2007」
によると全壊・半壊55棟(37%)、一部損壊47棟(31%)、無被害48棟(32%)で1/3強が全壊・半壊していて全壊だけ見ると27棟(18%)であった。
●この地区の住宅は豪雪地帯でもあるので高床式か布基礎で屋根は金属葺き屋根が多く耐震性には優れていたものの震度7クラスの地震では1/3程度が
全壊・半壊の被害を受けたことが分かる。
●建物の用途別では店舗24棟では全壊が29%、半壊が37%で全体の66%が全・半壊していることが報告されている。このように店舗に被害が多いのは
建物が木造で1階側面に開口分部が多く壁量が不足していることから1階面の耐力不足により建物全体が倒壊する被害を受けているのが分かる。
●一方川口町の役場を中心に調査範囲を拡大して355棟の詳細を調査した資料(日本建築学会第32回地盤振動シンポジューム2005.1.7,P22-32)によると
築30年以上の非常に古い木造住宅51棟では全壊が46%、半壊が11%で全体の57%が全・半壊していることが報告されている。
一方築10年未満の新しい住宅では全壊・半壊共に0%で一部損壊が23%、無被害が77%であった。これらの新しい住宅は新耐震基準が施行された1981年以降に
建築されていることから新耐震基準の有効性が認められる結果となった。
<火災被害> トップに戻る
●この地震による火災は9件発生し4人が負傷したが死者は出なかった。
出火原因は次のようになっている。
①薪ストーブの上に洗濯物や家具が倒れた・・・・・・・2件
②工作機械の電源ケーブル短絡によるスパーク・・・・・・ 1件
③高温金属と水の反応によりアルコールに引火・・・・・1件
④ガス配管破断によるガス漏れに引火・・・・・・・・・2件
⑤仏壇の線香の火が可燃物に落下し着火・・・・・・・・1件
⑥通電火災(蓄熱暖房機より着火)・・・・・・・・・・1件
⑦不明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1件
●通電火災が少なかったのは地震による停電後に再度通電する際に電力会社が通電する家の状況を判断しながら通電作業をしたことが理由と思われ
このことは阪神・淡路大震災の通電火災の教訓が生かされているように思われる。
●延焼火災は2件でその内1件は6棟が延焼し、他の1件は1棟の延焼規模であった。延焼が拡大しなかったのは強風でなかったことや電話による119番通報が
可能で且つ消防隊による消火活動が実施できたことと、住宅が極度に密集していなかったことが主な理由と思われる。
<引用・出典・参考文献> トップに戻る
【引用】
①【図13-2】新潟県HP「新潟県中越大震災の記録」第1章第2節 図1-2-3 から引用。
【出典先】
①【写真13-3】,【写真13-4】:新潟県HP/新潟県土木部発行「中越大震災記録誌」
②【写真13-5】,【写真13-6】:一般財団法人消防防災科学センター災害写真データベース
【参考文献】
①新潟県土木部砂防課平成17年9月発行「新潟県中越地震と土砂災害」
③新潟県発行「平成16年新潟県中越大震災による被害状況について(最終報告)」
④新潟県発行「中越大震災記録誌」
⑤新潟県長岡市発行「新潟県中越大震災の被害及び復旧対策の概要」
⑥国土交通省北陸地方整備局発行「平成16年新潟県中越地震による被害と復旧状況(第2報)
⑦日本地震工学会論文集第7巻、第3号、2007「2004年新潟県中越地震における川口町震度計周辺の
建築物被害の分析と強震記録の対応」
⑧日本建築学会第32回地盤振動シンポジューム(2005.1.7)P21-32「2004年新潟県中越地震地盤と
地震被害」
⑨新潟大学積雪地域災害研究センター「中越地震における建物被害の偏在と地盤災害」
⑩防災士教本(平成28年7月1日第2版)
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