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地震と建物被害

<<地震対策で一番重要な建物の耐震化>>

■震度が大きくなるに伴い地震による揺れ(地震動)は大きくなり、建物や土木構造物に大きな被害をもたらすが、1995年1月の兵庫県南部地震(阪神・ 淡路大震災/最大震度7)では、104,906棟の家屋が全壊し地震による死者(6,434人)の80%相当が家屋の倒壊や家具の下敷きになって死亡した。
【写真22-1】阪神・淡路大震災で1階部分が崩壊した住宅(出典:災害写真データベース)
Natural ■なぜこのように多くの建物が倒壊したのでしょうか。結論から言えば「建物の耐震力不足」と言うことになる。
■この地震で倒壊した建物は現行の建築基準法(1981年/昭和56年改正)以前に建てられた建物(既存不適格建物)に集中していて、 強い揺れに対して柱、梁、壁等の耐力が不足し倒壊に至っている。
■特に2階建て木造住宅の被害は屋根瓦と2階部分の重みで1階の柱が折れて1階全体が潰れるケースが多かったが、1階が崩壊しても 2階部分は生存の スペースが残りやすく、2階にいた方の死者は少なかった。
【図22-2】旧耐震基準住宅の倒壊率(阪神・淡路大震災)
Natural ■【図22-2】,【図22-3】は阪神・淡路大震災時の罹災証明書のデータを基に住宅の全壊率をグラフにしたもので、横軸に震度(5.0~7.0)、 縦軸に全壊率(0~100%)を表し、罹災証明書の全壊状況をプロットしたののだ。
■【図22-2】は旧耐震基準で建てられた住宅の全壊率曲線で、「震度6弱」から全壊率が加速度的に急上昇し、「震度7」では倒壊率が90%を超えたことが分かる。
 ・ピンクの線:昭和36年以前の住宅
 ・ミドリの線:昭和37~56年の住宅
【図22-3】新耐震基準住宅の倒壊率(阪神・淡路大震災)
Natural ■一方【図22-3】は新耐震基準で建てられた住宅の全壊率曲線を示しているが、このケースでは「震度6強」から全壊率が徐々に上昇するが「震度7」でも50%程度にとどまることが分かる。
■【図22-2】【図22-3】言う「全壊」とは住宅の全部倒壊に加えて縦軸の全壊率(「被害額」÷「住宅の時価」)が50%以上のものとしている。全壊率が50%を超えると補修や修復は困難とされている。
■このようなことから地震に対する防災で一番重要なことは「住宅の耐震化」で、特に旧耐震基準の建物(1981年/昭和56年5月以前に建てられた建物)は信頼がおける工務店やハウスメーカに 耐震診断をしてもらい、その上で耐震補強工事を行うことが急務だ。
「自分や家族の命を守る」ために自宅の耐震化は過去の地震被害から見ても極めて重要あることがで分かる。


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<<耐震設計>>

●建物は基礎、土台、柱、梁、壁、床、屋根等の主要構造物部分で構成されているが建物が倒れないように抵抗しているのは 「耐力壁」と言う壁で、この耐力壁が床面積に対して一定量(壁率)ないと大きな揺れがくると建物は倒壊や崩壊を起こす。
●木造住宅の場合は壁に筋交い入れる工法の「耐力壁」や、構造用合板で全面を覆った「面材耐力壁」などがあるが、 筋交いを使用する場合も「片筋交い」と「たすき筋交い」では工法の違いにより耐力壁の強度(壁倍率)が変わる。
●また「耐力壁」については東西・南北方向にバランス良く配置されていないと、たとえ新耐震基準で建てられていたとしても 強い揺れでは倒壊する可能性がある。たとえば大広間を造るため南面の耐力壁の面積を極端に少なく配置したり、デザインや機能を あまりに優先して耐力壁の配置がアンバランスになると建物の耐震強度を損ねる場合がある。
●なお、耐力壁のバランスについては兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の教訓から建築基準法が改正され現在では壁の バランスチェックが必要になっている。
●このように耐力壁が建物の耐震化の要であるが、その他にも床の強度や地盤調査(液状化や軟弱地盤対策)更には基礎、土台、柱、梁などの接合部の 強度も重要で、建築基準法では一定条件の時に接合部に「金物の取り付け」が定められている。
●特にホールダウン金物(引き寄せ金物)は建物に水平力を受けた場合に、耐力壁にかかる引き抜き力に対抗するため、柱と基礎又は 土台間に取り付けたり、2・3階部分では柱と柱、柱と梁に取り付けることにより建物の耐震強度を向上させる効果がある。

【図22-4】平成28年熊本地震での木造住宅被害状況
Natural
●日本の建築基準法は過去の巨大地震の教訓から徐々に改正されてきているが果たしてその効果が出ているのかを知るには実際の地震の 被害を分析しなければならない。2016年4月発生した熊本地震の木造住宅の被害状況を日本建築学会が「1981年5月以前(既存不適格)」、 「1981年6月~2000年5月」、「2000年6月以降]3項目の観点から被害を調査したので、そのデータを引用し作成したグラフが【図22-4】である。
★既存不適格とは!
  建築時には適法で建てられた建築物で、その後法令が改正され現行の
  法令に対して不適格な部分が発生した建物。
●【図22-3】のグラフはいずれも木造住宅の被害状況であるが1981年5月以前に建築した既存不適格の建物では25%強が倒壊や崩壊を起こしている。 この地震では前震や本震がいずれも夜間に発生しておりほとんどの方が自宅に居たと思われ、建物の倒壊や崩壊は人命に直結する事態になる。
●既存不適格の建物が地震に弱いことは阪神・淡路大震災でも同様な傾向にあり多くの人的被害を出している。このようなことから既存不適格の 建物は早急に耐震補強を急がなければいけないことが分かる。
●さらにこのグラフでは「倒壊・崩壊」と「大破」を合計した比率(白線のライン)が1981年改正の新耐震基準対応建物では大幅に下がり、更に 2000年6月改定対応建物では更に減少していることが分かる。
●このグラフを見ても分かるように建築基準法は過去何度か改正されてきているが1981年6月と2000年6月の改定が震度7クラスの地震時に 建物を崩壊・倒壊や大破の減少に有効に機能していることが分かる。
●住宅を新築する場合工務店やハウスメーカに任しておけば建築基準法により施工されるので「震度6強」や「「震度7」クラスの 地震でも倒壊や崩壊をしない住宅ができるでしょが、中破・小破や軽微被害は出る可能性が無いとは言えない。 そこで建築予算があればのことですが最近は施主の要望により耐震レベルをより上げて設計することできる。これは建築基準法と 「住宅の性能表示制度」により定められた「耐震等級」【表122-4参照】のことで耐震等級を上げて設計すればより安全な家を造る ことができるようになっている。
【表22-4】建築基準法・住宅の性能表示制度での地震等級
地震等級 内容
地震等級1 建築基準法で定める強度を有する建物
【百年に1度発生する地震(震度6強、震度7)でも「倒壊」しない。数十年に1度発生 する地震(震度5強程度)でも「損傷」しない。】
地震等級2 地震等級1で想定する地震力の1.25倍に耐えられる
地震等級3 地震等級1で想定する地震力の1.5倍に耐えられる



<木造住宅の既存不適格建物耐震化工事>                  トップに戻る

●1981年5月以前に建築した建物は現行の建築基準法に比べて地震に対して弱く設計されており震度6強、震度7クラスの巨大地震が 遭遇すると倒壊や崩壊する可能性がある。このような建物を「既存不適格」の建物と言うが過去の巨大地震では倒壊や崩壊をして 多くの人的被害を招いている。
●そこで巨大地震がきても倒壊や崩壊しないことを主眼に改修することを耐震化工事と言い、その施工方法はその家の構造により個別に 検討して補強設計した上で施工する必要がある。耐震化に当たっては一般的に次のステップで進めると良い。
●ステップ-1(自己診断)
まずは自分自身で耐震化という目で自宅を見つめてみる必要があり、(一)財 日本建築防災協会が発行しているリーフレット 「誰でもできるわが家の耐震診断」 を利用して自宅の耐震診断をすると良い。このリーフレット10項目の問診から出来ており専門的知識がなくても質問に回答することにより総合点数で 大まかな耐震診断ができる。
●ステップ-2(一般診断)
ステップ-1(自己診断)の結果で専門家の診断が必要と判断された場合は信頼がおける工務店や設計事務所に一般診断を依頼する。 この場合あくまでも耐震上どこに課題があるのか、どの程度の工事内容になるのかを大まかに判断してもらうのが目的なので 図面や目視等で診断する「非破壊での調査」として依頼する必要がある。
★どのに依頼すれば良く分からないときは市役所等行政に耐震化に関する窓口があるので、まずは行政に相談すると良いでしょう。 現在行政では1981年5月以前に建築した建物の耐震化に関して「耐震診断」や「耐震化工事」に関して条件により補助金を支給しているの 併せて相談すると良いでしょう。
また(一)財 日本建築防災協会 でも耐震診断等耐震化のサポートしてくれるのでこちらのサイトでも情報を得ると良いでしょう。
●ステップ-3(精密耐震診断)
ステップ-2(一般診断)で耐震上の課題がある程度大まかに確認できたら、具体的な耐震上の問題点を洗い出すため精密耐震診断を 設計事務所に依頼する。この場合も市役所等の行政の耐震化の窓口があるので、まずはそこに相談すると良いでしょう。 設計 精密耐震診断を受けるとその結果が報告書となってくるのでその「上部構造物評点」で現状の耐震レベルが判明する。

【表22-5】耐震診断における上部構造評価点と判定内容
評点 判定
1.5以上 ◎倒壊しない
1.0~1.5未満 ○一応倒壊しない
0.7~1.0未満 △倒壊する可能性がある
0.7未満 ×倒壊する可能性が高い

「上部構造物評点」は【表22-5】に示すように評点1.0が基準で、たとえば精密耐震診断の結果「評点」が0.5だとすると 阪神・淡路大震災や熊本地震レベル(震度6強、震度7クラス)の地震がくると建物が倒壊や崩壊する可能性が極めて高い ことを意味する。ここで精密耐震診断の結果で耐震補強工事を実施するか否かを最終判断する必要があるが、行政の耐震化工事の 補助金やリフォームを併せて実施すると効率的であることなども勘案して結論を出す必要がある。
●ステップ-4(補強設計・精密耐震診断)
耐震化工事を実施することになった場合は具体的な補強方法の設計とその設計の評価を設計事務所に依頼する。この際に設計事務所に もよるが設計監理(現場の施工状況の管理)も併せて依頼しておくと実際の工事を行う施工会社を第3者的立場で設計どうりに施工して いるか管理してもらうことができる。但し耐震診断から施工まで全て施工会社でできる場合もあり、その場合は1社に耐震診断から 施工まで全て任せる(責任施工方式)こともできる。
●ステップ-5(見積書取得)
設計事務所が設計した耐震化工事の内容をもとに実際の工事を行う施工会社を決めて工事費の見積依頼を行う。(施工会社の選定は行政や 設計事務所の紹介で決めると良い) この際、施工会社との請負契約前に注意すべきことは工事仕様書(具体的施工内容を文書化した書面)と見積書(一式でなく耐震工事の内容 ごとに内訳が明確になっているもの)を必ず書面で入手して、どこまでが施工範囲かを明確にしておくと、後で追加工事が発生した際に 当初の見積範囲との比較が可能で追加工事の妥当性が確認できる。
●ステップ-6(補強工事)
この段階でいよいよ耐震補強工事が着工され施工会社により設計事務所が設計した耐震補強設計を基に耐震補強工事が実施される。
工事の途中での具体的施工状況の是非は設計監理を行う設計事務所に確認してもらうようにすると良い。

<<行政の補助金制度>>

●国は既存不適格の建物の耐震化を防災計画に盛り込み耐震化工事に対して補助制度を構築している。木造住宅に特化すると各市町村が 国に代わり補助制度をもっており耐震化に伴う補助金を利用する場合は所管の各市町村窓口で、その制度の内容を確認すると良い。 但し市町村により補助金の額や条件がかなり違いがあるようなので所管の各市町村窓口で直接相談を受けると良い。 筆者が住む埼玉県坂戸市の補助制度 の内容を1例としてリンクをはりましたので参考すると良いでしょう。(リンクしたページの「様式等」の個所にある『木造住宅の「耐震診断」及び「耐震改修」 補助金交付制度のご案内』(PDF)をクリックするとその内容が確認できる)

<<耐震診断・耐震補強工事施工会社の選定>>

●実際に耐震化工事をすると決めてもどこの会社に耐震診断や補強工事を依頼すれば良いかは判断は建築のことをある程度経験していないと 判断できないのが現状です。特に耐震化の場合その耐震設計がしっかり出来ていて、更にその設計に基づいてきちんと施工がされていないと 命に係わることなので信頼がおける会社に依頼することが極めて重要だ。
●特に木造住宅の場合は市町村の補助制度が利用できることもあり、まずは市町村の窓口に行き耐震化の相談を受け更に登録認定会社等 から耐震診断や施工会社を紹介してもらうのが一番安全と思われる。
●耐震化工事の実際の発注方式は【表22-6】のようにタイプ(A)、タイプ(B)が考えられますが、耐震工事の性格上「耐震設計通りに 施工されていること」が極めて重要なので設計した会社に施工・設計監理(設計通りに施工されるか要所要所を現場で 確認する仕事)一括依頼する方式が良いと思われる。
●建築にある程度知識がある場合は「タイプ(B)」の発注方式をとり施工会社を3社程度から相見積もりを取り工事費の比較をする こともできますが、設計監理だけは耐震設計をした会社に任せるのが得策だと思われる。

【表22-6】耐震化の発注方式
発注方式 一般診断
(ステップ-2)
精密耐震診断
(ステップ-3)
補強設計
(ステップ-4)
補強工事
(ステップ-5,6)
設計監理
タイプ(A) 建築士事務所 建築士事務所 建築士事務所 建築士事務所 建築士事務所
タイプ(B) 建築士事務所 建築士事務所 建築士事務所 施工会社 建築士事務所

【凡例】
  タイプ(A):耐震診断(一般診断・精密診断)・補強設計・補強工事・設計監理一括発注方式
  タイプ(B):耐震診断(一般診断・精密診断)・補強設計・設計監理と補強工事別発注方式


<関東大震災やその後の地震の教訓を基にした建築基準の見直し>  トップに戻る

■地震で倒壊しない建物の重要性
 関東大震災では建物の耐震の重要性が改めて見直された翌年の大正13年に日本で初めて耐震基準が定めらてた。建物が倒壊すると倒壊による死亡者と 共に同時多発的火災のによる死者がでるが、関東大震災では火災による死者が圧倒的に多かった。このことから建物の倒壊は何としても 防ぐ必要がある。日本の建築基準法は大正13年の市街化建築物法改定による耐震基準導入を基点にその後の地震の教訓を基に更なる見直しが行われ 現在に至っているが2016年4月の熊本地震では新耐震基準で建てられた住宅でも倒壊するものが出た。今後耐震設計上の地域係数や耐力壁の直下率、 及び免震構造建物の長周期振動対策などが検討すべき事項とされている。
●過去の災害と建築基準法の改定状況
 ・1919年(大正8年) :市街化建築物法制定・・・・・・・・日本で始めての建築基準法導入
 ・1923年(大正12年):関東大震災<M7.9>
 ・1924年(大正13年):市街化建築物法改定・・・・・・・・耐震基準導入(木造建築物の柱を太くする、
           鉄筋コンクリート造、(RC造)の地震力規定、筋交いを入れる)
 ・1948年(昭和23年):福井地震<M7.1>
 ・1950年(昭和25年):建築基準法・施行令制定・・・・・市街化建築物法を廃止建築基準法制定を制定
           (地震力と必要壁量制定、軸組の種類と壁の強度制定)
 ・1968年(昭和43年):十勝沖地震<M7.9>
 ・1971年(昭和46年):建築基準法施行例改正・・・・・・耐震強度見直し(RC造の柱せん断補強改定、
           木造建築物の基礎は布基礎に改定)
 ・1978年(昭和53年):宮城県沖地震<M7.4>
 ・1981年(昭和56年):建築基準法施行令改定・・・・・・新耐震設計法の導入、地耐力により必要壁
           倍率の改正、軸組の種類と壁倍率の改正、
 ・1995年(平成7年) :兵庫県南部地震<M7.2>
 ・1995年(平成7年) :建築基準法改正,建設省令・・・土台の締結方法、筋交い・継手・仕口の緊結
           方法、地耐力に応じた基礎設計
 ・1995年(平成7年) :耐震改修促進法・・・・・・・・・・・・1981年(昭和56年)以前の旧耐震基準で建築物
           の耐震診断義務付け
 ・2000年(平成12年):建築基準法改正・・・・・・・・・・・・地耐力に応じた基礎構造の特定、地盤調査の
           義務化、耐力壁のバランス計算導入
 ・2011年(平成23年):東日本大震災<M9.0>
 ・2016年(平成28年):熊本地震<M7.3>

 出典・参考資料

【出典先】
 ・【写真22-1】一般財団法人消防防災科学センター 災害写真データベース「住家被害の様子」
 ・【図22-3】平成23年度広報誌「ぼうさい」第63号(内閣府)-14P   【参考文献】
 ・防災士教本(平成28年7月1日第2版)

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