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地震による液状化被害

<<液状化のメカニズム>>

●砂のような粒の大きさが揃っている砂地盤で地下水位が高い所では普段は砂粒と砂粒の摩擦力で支え合い安定を保っているが 地震や建設工事など連続した振動が地盤に伝わると砂粒と砂粒の間の水の圧力(間隙水圧)が上昇して摩擦力による支え合いが 外れてしまう。この結果、砂粒は水と混じり合い液状になり水の中を漂うような所謂「液状化の現象」が発生する。
●やがて振動が収まると砂粒は液状化している部分の下の方から砂粒間がきっちり詰まった状態で徐々に堆積を始めるため体積が 減少し地表上部に水だけが取り残され地表の弱い部分から砂の混じった水が噴出す「噴砂現象」が現れ水が抜けた分だけ地盤沈下が 起きることになる。
●液状化が起きと地中に埋まっているマンホールなどは中が中空になっているため比重が小さく浮力を受けて地上に突き出す ように浮き上がってしまう。従ってマンホールに接続されている配管は破断してしまうため雨水管や下水管のインフラが 破壊されてしまう被害が出る。
●また重量のある建物で岩盤や礫層(川底のように石が詰まった地層)まで基礎や基礎杭が達していない場合は建物の基礎が 耐力を失った砂地盤にめり込んでしまう。この結果、一般住宅などの建物では建物が不等沈下等で傾いてしまったり、鉄筋 コンクリート製の建物でも重心が高い場合は横転する被害が出る。

             【図25-1】液状化被害概念図
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 <液状化被害例>                 トップに戻る

  【写真25-2】千葉県浦安市での液状化被害
Natural ●【写真25-2】は東日本大震災の際に千葉県浦安市の液状化により地中埋設物のマンホールが浮き上がってしまった状態を記録したもので その他地下埋設物に被害が発生し水道、下水、ガス、電気などのライフラインが停止した。
●東日本大震災の際の建物液状化被害は全国で26,914棟であたったがその内の1/3の8,700棟が千葉県浦安市であった。浦安市に液状化被害が集中したのは 浦安市の地盤に由来するもので、浦安市はもともとの元町地域(262ha)の海側に埋め立てが進み1965年~1975年の第一期埋立(873ha)、1972年~1980年の 第二期埋立(563ha)と面積を増やしてきた。東京ディズニーランドは第一期埋立地域に建設されたがその後付近には住宅地が急増した。
  【写真25-3】浦安市富岡交番液状化被害
Natural ●このため浦安市のほとんどが埋立地であり盛土の下は埋立に利用された浚渫土があるが浚渫土には砂や砂利が多く含まれる。 実際にディズニーランドの東側千鳥地内を浦安市がボーリング調査した結果が公開されているがこれを見ると地上から80cmまでが盛土、その下1.2mが 埋立土(砂混りシルト)、以降は埋立土(シルト)、埋立土(微細砂)、細砂、砂質シルト、シルト交じり微細砂、シルト、砂混じりシルト、砂質シルトの 順で約20mまで砂質の地層が続く。
●場所にもよるが千鳥地内では地表から9m程度までは埋立土でその成分がほとんどが砂やシルト(砂より小さく粘土より粗い岩石が壊れてできた破片の地層) が多くもともと液状化しやすい地層であることがわかる。このようなこともあり東日本大震災では浦安市面積の86%で液状化が発生している。
●【写真25-3】は東日本大震災の際に千葉県浦安市の交番が液状化により建物が沈下する被害がでているが一般住宅でも同様に 沈下したり或いは傾く被害が多数でた。


 <液状化しやすい場所>                 トップに戻る

■液状化する要素
一般的に液状化は地震動の伝わり方にもよるが「①砂地(砂の粒子の大きさが揃った砂地)」、「②で地盤が締め固まっていない」、 「③地下水位が高く地盤全体が地下水に満たされている」の条件が揃うと発生しやすいと言われている。
■海岸線埋立地
特に海岸線などを埋め立てて造成した土地は表面は盛土で覆われているので概観は陸地と同じように見えるが盛土の下には膨大な埋立土が あり東京湾埋立地では海底の砂をパイプラインで海水を混ぜて運搬して埋立土にした所もあり、どうしても砂や砂質シルトの混じった地層になる。 このことが前述のように液状化の大きな要因になっている。
■昔の川・沼・池の跡地
昔の川・沼・池の跡地はもともと地盤が低いところを埋立して造成しており、水位が高く水はけが悪いところが多く海岸線の埋立地と同様に 液状化しやすい。特に地名に沼、池、新田、緑、が付く地名は昔沼、池、湿地帯や田んぼであった可能性があるので液状化のリスクがあるので 土地を購入して家を建てる場合は昔の地図を図書館等で調べたり、行政の液状化マップで調査することも必要だ。


 <液状化対策>                 トップに戻る

■液状化の対策としては①地盤を締め固める、②地下水を排除する、③支持層まで杭を打つなどの基本的方法があるが 一番確実なのは③の既製杭や鋼管杭を岩盤や礫層などの建築的支持層まで打ち込む方法である。しかし場所にもよるが 海岸埋立地などでは支持層まで数十メートルの深さがあり場合によっては50m近くになることがあり、杭打ち工事に 膨大な費用を費やすことになる。
■地の利が良くても液状化地盤の土地に家を建ててしまうとその後の液状化対策には相当な出費が伴うことを覚悟しな ければいけない。このことから購入する土地が液状化地盤であるかどうかは市町村や国道交通省が発行する液状化マップや 昔の地図・資料で、その土地が昔し沼や池、河川の跡でないこと確認することが重要だ。
■以下液状化対策の代表的工法を【表24-10】に示す。

【表25-4】液状化対策と具体的施工方法
対策 施工方法

(1)柱状地盤改良工法
<<立替・新築住宅対応>>

●この工法は地盤調査を行い岩盤や砂礫層などの建築的支持層まで重機で穴をあけてその中にセメントを中心にした固形材を流し込み 固形材の柱を地中に構築し、この柱で地上の建物の基礎を支えるものである。
●この工法は費用が安く一般的地盤改良工法であるが、この場合建物は支持層で支えているため液状化が起きた場合も建物への影響は ないが、液状化が起きた場合は外構周りの構造物やインフラ系地中配管類は沈下することが予想され建物との接続点で破断等の被害がでる 可能性がある。

(2)既製杭支持工法
<<立替・新築住宅対応>>

●この工法は地盤調査を行い岩盤や礫層などの建築的支持層まで重機(杭打ち機)のケーシングを回転しながら掘り進め、支持層まで達したら コンクリート製杭や鋼管杭を打ち込みむが杭には輸送上の制限で最大でも15m程度なので不足する分は溶接等でジョイントする。 この杭の地上部先端と建物の基礎をコンクリート基礎(フーチン)で固定して建物の重量を支えるものである。
●この工法は費用が高いが使用実績が多く、この場合建物は支持層に強固に支えているため液状化が起きた場合も建物への影響は ないが、液状化が起きた場合は外構周りの構造物やインフラ系地中配管類は沈下することが予想され建物との接続点で破断等の被害が でる可能性がある。

(3)格子状地中壁工法
<<既存住宅対応>>

●この工法は住宅の場合宅地の周囲をセメント系地盤改良材で地中に壁を構築し液状化地盤を囲い込むようにするもので、 これにより地震等による液状化層の揺れを小さくして液状化層の砂粒子の結合が外れないようするもので、液状化地盤がせん断変形 するのを防ぐものである。
●ポイントは地中に壁をつくる技術であるが機械攪拌式た高圧噴射式などがあるが地中に穴を開けながら地盤改良材を注入する。 但しこの工法は宅地に面する道路や隣家など周辺も同じ工法で対策を行い地域全体が格子状になることが理想で行政主導で 行う必要もある。東日本大震災時の液状化対策として千葉県浦安市がこの工法を住民と一帯となって実施することを推進しているので 「浦安市市街地液状化対策事業住民説明会の資料」 を参照すると良い。


 【図25-5】柱状地盤改良工法   【図25-6】既製杭支持工法   【図25-7】格子状地中壁工法
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 <液状化で傾いた住宅の補修方法>        トップに戻る

●地震等の振動や地盤の影響で住宅に傾きが発生してしまった場合は扉や窓が開閉できなくなったり、床が傾斜したりする。ひどい場合は 基礎が地中に埋もれてしまうことさえある。建物がすでにある場合は【表25-4】「液状化被害の地盤改良工法」で示す抜本的地盤改良は コストや技術面でかなり難しいのが現状である。しかし傾いたままでは生活ができないので補修することになるが補修する方法は基礎の 構造や建物の沈下量により最適な補修工法を決める必要がある。
●具体的液状化住宅補修工法には次の5種類があるが【図25-7】「液状化住宅補修工法選定フロー図」で判定すると良い。ただしある程度 建築・土木の基礎知識がないとこのフローは使えこなせないが、実際の施工は専門業者に依頼することになるが全て業者任せにしないで 業者からどのような工法を採用するのかをの説明を受け、自分でも納得した上で施工してもらうと良い。
  【図25-7】液状化住宅補修工法選定フロー図
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  【図25-8】ポイントジャッキ工法概念図
Natural <<ポイントジャッキ工法>>
不等沈下量が少ない比較的軽微傾きのときに適用する工法で基礎はそのまま利用して土台から上を油圧ジャッキ押し上げて 沈下量の修正を行うもので、住みながら工事ができ、また施工費はもっとも安価となる。
●手順としては沈下している部分の基礎と土台を切り離して柱直下の基礎上部をはつり、爪付き油圧ジャックの爪を入れるスペースを 作成する。次に油圧ジャッキを取り付け徐々にジャッキアップして所定の量だけアップしたら鉄製角パイプ等のスペーサーを土台と基礎間に 差し込みジャッキは取り除く。この作業を沈下している部分に対して順次実施する。
●ジャッキアップした分土台と基礎間に隙間ができるので土台と基礎をつなぐボルトが足りなくなるのでジョイントナット等で 不足分を継ぎ足す。さらに基礎と土台・柱を繋ぐ耐震補強用金具も取り付ける。
●次に土台と基礎間の隙間部分に鉄筋を配筋し型枠を取り付けたら用コンクリートを打設し、7日程度の養生期間を置き型枠を外して、 基礎に化粧モルタルを塗れば完成となる。
  【図25-9】耐圧版工法概念図
Natural <<耐圧版工法>>
●この工法は木造、鉄骨造、コンクリート造(RC)など幅広い構造建物に対応できるが地下水位が低く基礎下を掘削できる場合に適用する 工法で基礎から建物を一体でジャッキアップするため建物への影響を最小限にすることができたり住みながら施工できるメリットがある。
●まず、基礎の脇から基礎下60cm程度まで掘削して基礎下に建物の荷重を利用して地盤を固め、そこに耐圧版(鉄板やコンクリート版)を設置し、 その上に油圧ジャッキを取り付ける。このような仕掛けを建物の基礎要所に設置全箇所一斉にジャックアップを開始する。
●予定したレベルまでジャックアップし水平がとれたところで鋼製仮受け支持台を設置して油圧ジャッキを外す。更に仮受け支持台と耐圧版を 防錆処理をして基礎下部分に型枠を組み基礎下部分を気泡モルタル等で基礎下の空隙を完全に埋める。最後に掘削部分を埋め埋め戻して 土間部部の補修を行えば完了となる。
●この工法のポイントは基礎下の安定した支持地盤がり一定の地耐力が出ることが前提であるため地盤沈下が終息していることが条件となる。

  【図25-10】根がらみ工法概念図
Natural <<根がらみ工法>>
●この工法は沈下量が大きく場合や既存の基礎の破損がひどい場合で基礎の打ち直しが必要などに適している工法である。柱や土台にH鋼を 井桁に組み建物が歪まないようして建物全体をジャッキで持ち上げる工法である。木造や鉄骨造の建物に適用できが床を剥いで工事を行うため 比較的大規模な工事になり工事期間中は仮住居が必要になる。
●まず土台と基礎の固定ボルトや耐震補強金具などを基礎と切り離し基礎と土台を完全に切り離す。この際に浴室の土間コンクリートや 床材や腰壁の撤去も実施する。
●次に基礎の一部をはつりリフトアップする鋼材(H鋼やレール)を土台の下に入れて全体を井桁に組み鋼材どうしは番線等で緊結する。 鋼材が取り付けられたら要所・要所に油圧ジャッキを鋼材の下側に設置し、全体の水平を維持しながら徐々にジャッキで押し上げて 仮受け台で休ませる。この作業繰り返して所定の高さまで建物を持ち上げる。
●次に既存の基礎を解体して必要により地盤改良なども行い、その後新たな基礎を建物に合わせて構築し養生が
  【図25-11】アンダーピーニング工法概念図
Natural できたところでジャッキアップとは逆の手順で徐々にジャッキダウンして打ち直した基礎の上に建物を下ろす。
●次に既存の基礎を解体して必要により地盤改良なども行い、その後新たな基礎を建物に合わせて構築し養生ができたところでジャッキアップとは 逆の手順で徐々にジャッキダウンして打ち直した基礎の上に建物を下ろす。
●建物が基礎の上に乗ったら土台と基礎をボルトで固定したり耐震補強金物などを土台や柱に取り付けし、床や壁の復旧工事を行い完了となる。
●この工法の場合はかなり大規模の補修となるので耐震補強やリフォームなども併せて実施するのが効率的であるが液状化に対しては地盤改良や 支持層までの杭打ちをしないと抜本的解決にはならない。

<<アンダーピーニング工法(図25-11)>>
●この工法は木造、鉄骨造、コンクリート造(RC)など幅広い構造建物に対応できるが、もともと地盤が悪く地耐力が不足していて仮に建物のレベル 調整しても再度地盤沈下する可能性がある場合に適用する工法である。この工法では支持層まで鋼管杭を建物の荷重を利用して打ち込むため 完成後は液状化が起きても周りの地面は沈下しても建物は沈下しない。但し【図25-9】の耐圧版工法と同様に基礎下を掘削するため地下水 レベルが高いと施工できない場合もある。
●施工方法はまず基礎脇から基礎下1.2m程度掘削して

  【図25-12】薬液注入工法概念図
Natural 平坦部をつくり鋼管をセットして基礎下と鋼管の間に油圧ジャッキを入れる。 鋼管は建物の重量や鋼管杭に本数等でも変わるが一般的に直径165mm、長さ700mm、肉厚4.5mmを使用し、配管の接合方法は裏当て金物を使用して 溶接で接合する。なお、油圧ジャッキを入れる場所は基礎図面で決めておきそれぞれに対して同様な油圧ジャッキを設定する。
●次にそれぞれの油圧ジャッキに力を加えるとその反力が鋼管杭に加わり地盤の耐力が弱いと鋼管杭は地中に圧入される。この圧入作業を繰返し 鋼管が足りなくなったら次の鋼管を溶接で接続して更に圧入作業を続ける。
●鋼管杭の圧入は鋼管杭の先端が支持層に達すると鋼管杭の反発が大きくなり逆に建物を持ち上げる力が発生するのでこの時点で圧入作業は完了する。 地盤によっては予定支持層に達する前に別な支持層に当たることもあるが一定レベルの圧入圧力が得られればその時点で打ち止めとする。
●鋼管杭の圧入が完了したら鋼管杭と基礎下間に最終レベル調整用架台を取り付け建物の水平レベルを確認して架台を固定する。最後の 掘削した個所に閉め固めが不要な流動化処理土で埋め戻すして完了となる。

<<薬液注入工法工法(図25-12)>>
●この工法は基礎下の地盤改良を行うと共に建物水平レベルの調整を行う場合に適用する工法で床や壁を剥がしたりしないので住んだまま 施工することができるメリットがある。
●施工方法は建物の基礎脇にボーリングマシンを設置し基礎下に向かってドリルで削孔すると共に薬液を注入する二重管を挿入して 化成ソーダと水でできた「主剤」(A液)と硬化剤やセメント・水でできた(B液)を基礎下に注入する。
●薬液の注入は【図25-12】に示すようにまず支持層に注入して地耐力を確保する。次にリフト盤に注入し最後に支持層とリフト盤の間に 注入しこの際に薬液の膨張によりリフト盤と共に基礎を押し上げることによる建物の水平レベルを調整する。


 <出典・引用・参考資料>                 トップに戻る

【出典先】
 ・【図25-7】:東京都都市整備局市街地建築部発行「建物を液状化被害から守ろう。」
   P-12の「工法選定のフロー」を基に作図し直した。
 ・【図25-8】~【図25-12】:東京都都市整備局市街地建築部発行「建物を液状化被害
   から守ろう。」P-12の「建物の沈下や傾斜を元の状態に戻して使用するための工法」を
   参考に作図し直した。
【参考文献】
 ・防災士教本(平成28年7月1日第2版)P-168

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